中高数学教育序説-はじめの0.5歩-

特に数学教員志望の学生さんや若手数学教員の皆様の少しでもためになったらこれ幸い

中学生の数学理解の実態【資料の活用】編

今回は,「資料の活用」領域における中学生の数学理解の実態のごくごく一端を,前回記事と同じく全国学力・学習状況調査の結果からいくつか挙げてみたいと思います.

www.nier.go.jp

「資料の活用」とは確率と統計を内容とする領域で,新学習指導要領からは「データの活用」という名称に変わり,内容の充実が図られたところです.

中学校学習指導要領解説:文部科学省

なお,以下では全国学力・学習状況調査の結果に話を絞りますが,確率は誤った認識を引き起こしやすいことがよく知られており,実に様々な研究がなされています.

数学教育学では,確率の認識についてもっと突っ込んだ論文がたくさんあります.そこは全くレビューしきれていないので,その前提でお読みください,,,

 

(1)確率の意味の理解

まず挙げたいのは,以前もツイートした,これです.2015年度調査より.

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趣旨と反応率は以下の通りです.

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この結果をそのまま受け取ると,22%の生徒は「6回投げるとき,1の目は必ず1回出る」と思っていて,さらに約10%の生徒は「6回投げるとき,全ての目が1回ずつ出る」と思っている,ということです.

全国学力・学習状況調査は100万人以上の中3が受けていますので,22%といえば約22万人ですし,10%でも約10万人です.

もちろんあくまで紙面調査なのでこの数値がそのままその実態というわけではないでしょうが,「読解力の問題」の一言では片づけられない実態だと思います.

このレベルで10人中3人にすでに問題が起きているとするなら,世の中「確率」を誤解している人が多いのもうなずけます.

この年度の報告書では,以下の分析が書かれています.

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そうなんです,実はこの問題は前々から使われているもので,全国学力・学習状況調査では8年前の2007年調査でも出されているのです.

「改善の傾向がみられる」とあるので,表にしてみました.

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2007年調査では,「6回投げるとき,1の目は必ず1回出る」を選択した生徒が27.1%いたんですね…およそ10人中3人が「6回投げるとき,1の目は必ず1回出る」を選んでいた…

ウと無回答が上がってしまっていますが,それ以外は下がっており,正答率は約6ポイント上がっているので,まぁ,「改善の傾向がみられる」のでしょうか.

この問題は,全国学力・学習状況調査が始まる前の,「教育課程実施状況調査」という,学習指導要領改訂のために使われたりする調査でも出されておりまして,結果は同じような傾向になっています.

私は最初2007年調査の結果を見たとき,「世の中には,サイコロ投げ等の実験を行っていない中学校が結構あるんだなぁ」ぐらいにしか思っていませんでした.なぜなら,実際に実験を行ってみれば,「6回投げるとき,1の目は必ず1回出る」保証など無いと“実感”できるからです.

しかし,指導経験を重ねるにつれ,そんな単純な話でもないことが段々わかってきました.といってもまだうまくつかめていませんが,実際に実験は行っているものの,確率の「意味」として,統計的確率と数学的確率(古典的確率)がうまくつながらず別物になってしまうというケースはありそうです.

統計的確率は同様に確からしくない場合こそに有効なわけで,同様に確からしい場合には数学的確率を使うことになるわけですが,数学的確率を求める際にもその統計的確率としての意味を確認するなど,統計的確率と数学的確率との接続にはもっと気を遣った方がいいのかもしれません.

 

(2)大数の法則の直感的理解

確率の問題は他にも独立性を問うものなど興味深いものがいくつかあるのですが,ここではもう1問,多数回の試行にこだわって次のものを挙げてみます.

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問題文長ぇ・・・これ中3最後まで読まんだろ・・・

と思う方こそに興味深い結果となっています.

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そうです,誤答で最も多いのが,最後の選択肢「エ」なのです。

約26%の生徒がおそらく最後まで読んだうえで「硬貨を投げる回数が多くなっても、表の出る相対度数の値は大きくなったり小さくなったりして、一定の値には近づかない」を選択しています。

確かにこれは問題文の解釈を取り違えているケースもありそうですが,それも含めて何らか問題が起きていると考えられます.

多数回試行に基づいて大数の法則(この問題の文面だと,強法則?)を“実感”することは学習指導要領解説でも求められているのですが,教科書には必ずその様子が載っているので,実験をせずに,あるいはその結果から収束の様子を見せなかったりして,教科書を確認するだけで終わっているとか?

統計的確率すっとばして,いきなり数学的確率から始めている?

実際に実験してみた経験がないと,問題文にある「相対度数の変化のようす」の意味がそもそもわからないと考えられます.

また,「表が出る相対度数は1に近づく」としている生徒が20.3%,「表が出る相対度数は0.5で一定である」としている生徒が17.3%いることも気になります.後者の認識はまだ想像できる(数学的確率と混同している?)のですが,前者を選んだ生徒って,どういう理解しているのでしょう・・・?

 

現行学習指導要領では統計的確率と数学的確率が中2「確率」で扱われますが,新学習指導要領では統計的確率の部分が中1に降り,数学的確率の部分が中2に残ることになっています.

(個人的には一緒に学習した方が何かと良いとは思っていますが)

つまり,今後は,中1にとっての「確率」の意味は「相対度数の極限値」であり,中2でそこに「場合の数の比」が加わることになります.

そのとき,それぞれどんな指導が求められ,どんな認識に至るのか.

現行の指導と同じままにはいきません.そこを考える際に,上記の実態は一つの参考資料になると考えます.

 

(3)ヒストグラムから相対度数を求めること

確率だけでなく統計からも気になる問題を挙げておきます.

1つはこれです.

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いいでしょうか.「3」ではないですよ.相対度数です.

反応率は以下の通りです.

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正答率23.7%・・・1/4に満たない・・・

でも,きっと度数をそのまま書いてしまったんだろう.

「3」と回答したのは・・・同じ23.7%!?

合わせても半分に満たない・・・

というか,この問題で「上記以外の解答」約26%何より「無回答」約25%もいるですと・・・?

相対度数は「割合」なので生徒にとって難しいのは百も承知ですが,(「3」と答えた生徒はまだ良いとして)少なくとも半分,つまり約50万人が,あの単純なヒストグラムで「22℃以上24℃未満の階級の相対度数」の意味を理解できていないようであるという結果はなかなか衝撃的ではないでしょうか.

そして,なぜこうなるかを分析したいものの,「上記以外の解答」と「無回答」があれだけいるとなると,調査の限界を感じます.

上記の分析にある,階級値書いたと考えられる「23」はまだわかりますが,「5」とは?30℃以上32℃未満の度数?

「8」は?・・・最頻値?

「10」は?・・・30 \div 3 ?(ありえそう)

新学習指導要領「データの活用」では,統計的問題解決,いわゆるPPDACサイクルを回すことがより一層重視されます.

ですが,その指導は生徒の実態に照らしてもなかなかに困難であることが予想できます.

 

(4)「範囲」の意味

最後に,これは仕方ないな・・・という1問.

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いいでしょうか.「範囲」ですよ.

反応率などは以下の通りです.

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そうです,「40から56」ではないのです.

日常用語の意味での「範囲」ではなく,“最大値-最小値”で定義される,統計用語での「範囲(レンジ)」なのです.

「40から56」と回答した生徒が32.6%います.気持ちはとてもわかりますね.

日常用語と区別するために,「範囲(レンジ)」のように,常に「レンジ」をくっつけて指導してはどうでしょうかね.

まぁただ,ばらつきを数値化するのに範囲(レンジ)などほとんど使わないでしょうからねぇ・・・

新学習指導要領では,中2に箱ひげ図が入り,四分位範囲を学習することになります.そうすると「範囲(レンジ)」の捉え方も変わってくるかもしれません.

あと,ここでも「上記以外」の29.3%が気になってしまいますね.それだけ解答類型にはまらなかったということですから,作成者たちも読み切れなかったということです.

しかし中央値や平均値を回答しているということは・・・?もし,問題文読まずに,こういう出題がされたときは平均値や中央値だ,などととらえているとしたら,それこそまずい事態です.

 

今回は,前に「数と式」について書きましたので領域順でいけば「図形」→「関数」→「データの活用」なのですが,「データの活用」から書いてみました.

新学習指導要領で変更が多い領域というのが一つの理由です.

少しでも指導に役立てば幸いです.