中高数学教育序説-はじめの0.5歩-

特に数学教員志望の学生さんや若手数学教員の皆様の少しでもためになったらこれ幸い

大学入学共通テストの試行調査問題から高校の数学授業を考える(その1)

今回は,大学入学共通テストにおける数学の試行調査問題から,高校数学の授業について考えてみたいと思います. 

というのも,まず,2017年11月実施の試行調査は,「探究の過程等をより重視した問題」であったことに注意が必要です.

あれが「数学」の大学入試問題なのか,と思われた方は少し安心(?)してください.

次の試行調査はトーンダウンすることが予想されます(個人的には残念).

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http://www.dnc.ac.jp/news/20180326-01.html

 

じゃあなぜ「探究の過程等をより重視した問題」なぞ出題されたのか?

それは,高校の数学授業をいいかげん変えましょうというメッセージだととらえています.

実際,高校の数学授業は,下記の調査研究がなされたときからそれほど変わっていないように思われます.

ですので,じゃあそのメッセージを受け取ってやろうじゃないの,というのが本記事の趣旨です.

具体的に言及したい問題が絞ってもいくつかあるのですが,書いていてとても長くなることに気づいたので,1問ずついきたいと思います.

最後の問題が一番好きだったりしますが,とりあえず順番通りいきます.

 

1問めは,数学ⅠA第2問の,Tシャツの価格設定の問題です.

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こちら,新聞記事等で話題にもなりましたが,実は同じような問題は検定教科書(課題学習のところなど)に載っていたりします.

元々数学教育研究ではそれなりに有名なネタで,実践研究の論文が10年以上前(!)に出されてもいます.

ci.nii.ac.jp

この実践論文は海外の教科書教材が元ネタですが,日本では,実は1978年の時点で森口繁一先生が『応用数学夜話-現象と数理と統計-』の一番最初でこの問題の数理にあたることを書いておられますね. 

応用数学夜話 (ちくま学芸文庫)

応用数学夜話 (ちくま学芸文庫)

 

 このように「日常生活や社会の事象を数理的に数理的に捉え,数学的に処理し,問題を解決する」ことは,もはや算数・数学の「学習過程」の1つであり,いまはその過程を遂行するための資質・能力の育成が求められる時代です(めっちゃ難しいけど…).

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http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/073/sonota/__icsFiles/afieldfile/2016/09/12/1376993.pdf

(たびたび出るこの図…)

 この方面の数学教育研究は,数学的モデル化に関する研究として,かなりのことがなされてきています.ご興味ある方は以下の「数学的モデル化」の項をどうぞ(言ってももう7年以上前のものですが). 

数学教育学研究ハンドブック

数学教育学研究ハンドブック

 

 で,「日常生活や社会の事象をもっと授業に取り入れよう!」と主張すると,「いや純粋数学こそ大事」とか「数学は抽象性あってこそ」みたいなご意見をいただくのですが,もちろんそれはそれでとても大事なことだと思っていますし,全く否定はしておりません.

(このあたりは数学教育の目的・目標論の話になってきてそれはそれでまた長くなるのでまたいずれ別記事で,,,)

 

以下は,この問題のねらいと正答率です.

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最後の方のえらい正答率に目を持ってかれがちですが,むしろ(1)のアイウ,どうなんでしょうかこれは…

少し詳しめに問題を見てみます.

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調査問題なので,プロセスをすべて書いてくれています.

調査のねらいに「関数関係を見いだして」とありますが,すでに変数も特定してくれているし,その変数間の関係の調べ方まで書いてくれています.

授業でこの教材を扱うのであれば,まさにこのプロセスを生徒自身がどう経験していくかが問われます.

イは, (x,y) のグラフを直線とみなすというところまで言ってくれてて,そのとき yx のどういう関数であるかを選ぶ問題ですが,正答率は42.3%です.

(アで「販売数」を「累積人数」と読み替えられた62.4%から20ポイント下がっています)

授業であれば,生徒自身がまず変数を特定し,そこから変数間の関係を探っていくことになるでしょう.

問題の誘導にあるように必ずしもグラフにする必要はなく,表で差を調べ,変化の割合が大体一定であるとみなしてもいいですね.

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このように,変化の割合がぴったり一定ではなかったり,点プロットが完全に直線状でなくとも「1次関数とみなして」解決を進める活動はいまは中2の検定教科書に普通に載っています.

が,高校の授業での意識はどうでしょうか.生徒は「関数とみなす」活動を実際に行っているでしょうか.自ら変数を特定したり,それらをグラフにしてみたり,表を調べたりして,対応関係を見いだしていく経験をしているでしょうか.

 

ウは,売上額 S(x) はTシャツ1枚の価格 x ×販売数 y と問題文にわざわざ書いてくれています.

 yx の1次関数であるとみなせば,その yx をかけるだけなので,当然ながら S(x)x の2次関数とみなせることになります.しかし正答率は17ポイント近く下がって25.4%まで減ります.

この後,ようやく S(x) を式に表して処理することへと進みます.

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つまり,(1)アイウは,売上額 S(x) をTシャツ1枚の価格 x の2次関数とみなすところまでを問うています.

高校の授業では,与えられた2次関数の式をいろいろ処理することはよくしますが,一方で,事象から関数関係にあるとみなせる変数を目的に応じて特定し,それらの関係を見いだし,表現するということが「おまけ」になってしまっていないでしょうか.

もちろん式を処理したりそれをグラフにしたりということも重要ですが(そこのイメージがないとそもそも2次関数に表そうという発想も出ないかもしれない),関数の式がわかっていればグラフソフトでいくらでも処理できる現在,重要なのは事象を式に表現する過程ではないでしょうか.

つまり,2度目登場のこの図でいうと,いままではつい真ん中のBやCのプロセスばかりが扱われがちでしたが,そろそろ真面目に左上のA1のプロセスを重視してもいいのではということです.

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ちなみに初回記事で書いた九九表の探究は,右下のD2のための教材であったと言えます.

 2次関数の一般式を平方完成してグラフを描けることは大事です(この問題では以下で示す通り実は平方完成する必要はないのですが).

それは私も生徒にめっちゃ強調します(平方完成は2次関数のためだけではないですし).

ですが,グラフを描いて最大値や最小値を求めるだけなら,式さえわかっていればグラフソフトでできちゃいます.

それに,そもそも2次関数の式に表せなければこれらの技能も活きません.

そしてこれはもちろん2次関数だけの話ではありません.

 BやCのプロセスだけでなくA1のプロセスを生徒自身が経験し,そこでの発想や難しさを意識化していけるような授業がいいかげん必要とされていると思います(実際,A1にあたる過程はとても難しいです,日常生活や社会の問題を何か自分で解決してみようとすればよくわかります).

そのことの教育的価値については,ぜひこの論文をどこかでゲットして読んでみてください.もう30年以上の前の論文なのに,現代の高校の数学授業に通ずるどころか今でも…な論文です.

ci.nii.ac.jp

本問題を,A1にあたる資質・能力を育成するための1つの教材としてとらえて授業化を図ってみると面白いと思います.

同種のものとして,数学ⅡBの第3問の薬の服用の問題も面白く,また実践研究が論文になっているのですが,もう長くなったのでやめておきます.

最後に(2)だけ少し言及しておきます.

 S(x)=x(-0.1x+250)

 ですが,これは苦労して平方完成する必要はなく,上に凸の2次関数で,

 x=0 と  -0.1x+250=0 から, x=0  と  x=2500 で y=0 となることがわかり,放物線の性質から,それらの中点を通る x=1250で最大値をとるとわかります.

平方完成しようとして誤った高校生もたくさんいそうです(むしろそこまで来ているだけ良い方だと思いますが).

それにこの解き方は,販売数が価格の1次関数である以上は,結局「無料のときと,もうそれ以上にすると誰も買わなくなる価格のちょうど真ん中にのときに売上額が最大」という事実にたどり着きやすいように思います.

2次関数の教材ネタとしていかがでしょうか.