中高数学教育序説-はじめの0.5歩-

特に数学教員志望の学生さんや若手数学教員の皆様の少しでもためになったらこれ幸い

「授業開き」教材としての"九九表の探究"

中学校数学科で「授業開き」という言葉が使われることがあります.

明治図書の『数学教育』の4月号は大体「授業開き」特集ですね.

www.meijitosho.co.jp

 

そもそも「授業開き」って何よ…ということにはここでは触れません(ここ掘り下げても仕方ない).

というか「授業開き」というとなんだか大層に聞こえてものすごい準備しなきゃ…とお考えかもしれませんが,何も「特別な授業」をする必要はないと思っています.

むしろ,「"普段から"数学の授業とはこういうものだからね」というのを示すまたとない機会です.

以下,特に中1向けを想定して(まさに中学校数学科の「授業開き」!),教材を提案したいと思います.

 

…といっても,既に散々提案されている定番中の定番教材です.

そうです,「九九表における規則性の探究」です.

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なぜ中1向け「授業開き」教材としてこれを推すかというと,

  1. 算数でもやられてきているけど,想像以上に"数学"が眠っている
  2. 見つけた規則性をもとに発展させることで新たな規則性を見つけられることを体験できる(以下で少し詳しく書きます)
  3. 初めて「数学」の授業を受ける中学1年生にとって馴染みがあり心理的負担が和らぐし,数学(算数)が苦手な生徒でも何か見つけられる
  4. 見つけた規則性を「説明する」場を必然的に設けられる
  5. 新学習指導要領では素因数分解が中1最初に来る

あたりが理由です.

以下では特に上記2について強調しておきます.

今後の数学教育において求められているのは,ひとまず,「事象を数理的に捉え,数学の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解決することができる」という資質・能力の育成(教育課程部会算数・数学ワーキンググループ,2016)ということにしておきましょう.

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http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/073/sonota/__icsFiles/afieldfile/2016/09/12/1376993.pdf

 

「九九表における規則性の探究」は,まさに「自立的,協働的に解決する」ことにうってつけです.

まず,「自立的に」,つまり自力解決において何かしら(算数レベルでもよい)見つけられる可能性が高いです.これで発表できると生徒も嬉しい.

次に「協働的に」ですが,これは見つけたことをただ発表しあって終わり,を指すのではありません.

例えば,ある生徒が九九表の中のどこでもよいので2×2マスの正方形で囲み,「ななめどうしに足すと…」とか発表してくれたら超チャンスです(やったことない人は実際にいくつかの2×2マスの正方形で足してみてください).

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何の超チャンスか?

もちろん,「おおすごい!〇〇が成り立ちそうだね.そしたら次に何を考える?」と問うチャンスです.

ここで例えば次のような発言が出てきたらべた褒めしたいところです.

じゃあ3×3マスにして同じことやってみると…」(実際にやってみてください)

ななめどうしを足すんじゃなくてかけてみると…」(実際にやってみry

「え,そしたら……」

「じゃあこうしても……」

 

そうです,誰かが見つけた(高尚めな)規則性をもとにして発展させることで,自分もまた新たな(そして高尚めな)規則性を見つけられる,ということを体験させられるのです.

まさに「発展的に考える」という数学的な見方・考え方を,協働性を活かして明示的に指導できるチャンスであるわけです.

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http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/073/sonota/__icsFiles/afieldfile/2016/09/12/1376993.pdf

集団での授業だからこそ,自分1人では発見できないような規則性を発見できる.

集団での授業だからこそ,他者の意見に「乗っかる」ことができる.

自分1人で考えることは大事だけれど,それをもとにしてみんなして高め合っていくんだよ,というメッセージを発しやすい教材ではないでしょうか.

そしてそして,数学というのは答え(ここでいう1つの規則性)が出たらそれで終わりではなく,そこからが始まり(見つけた規則性をもとにしてさらなる規則性を探す)なんだ,ということも指導できるわけです.

 

さらには見つけた規則性が成り立つ「理由の説明」も超大事なわけで……九九表について書いていると本当にきりがありません.

ちゃんと探究した経験のない方は,ぜひご自分で探究し,生徒の多様な反応を予想してみてください.

私も過去に,「予想される生徒の反応」を完全に超えて来る発見(?)を生徒から出されたことがあって,めっちゃ面白い…!!となりました.

(皆様のお楽しみのためここでは何ら具体的な規則性について言及しませんが,この発見については過去にツイートしてしまったことがあります)

なお過去の数学教育研究では,例えば以下の研究成果報告書でオープンエンドアプローチの事例として九九表の規則性がめっちゃくちゃ探究されているのですが,残念ながらウェブでは落とせないようです.

kaken.nii.ac.jp

 

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最後に.

始めの方で述べた通り,これは何ら「特別な授業」ではありません.

今後の授業でも,ことあるごと(チャンス)に,「発展的に考える」問いを発するわけです.

九九表の時に似たようなことやったよね,と言いながら.

そういう経験を重ねていくことによってはじめて,自ら「次に何を考えるか?」を自己に問える生徒が育っていくのではないでしょうか.